【津金澤寛×和泉利明】超高齢社会に不動産は何ができるか~老後・介護における住まいと街の役割を考える

[ライフスタイル]

介護事業をメインに複合的な事業を展開し介護の新しい在り方を提案している「つばさグループ」代表:津金澤 寛氏と、弊社代表取締役:和泉 利明が、『超高齢社会に不動産は何ができるか』その可能性について語り合います。対談の様子を動画にてご覧ください。

少子高齢化への危機感とその備えの必要性が叫ばれて久しい日本。

WHO(世界保健機構)では、65歳以上の人口が国全体の人口の7%を超えた場合を「高齢化社会」、14%を超えた場合を「高齢社会」、21%を超えた場合を「超高齢社会」と定義し、少子高齢化におけるさまざまな問題を提起しています。

総務省の統計によれば、日本において65歳以上の高齢者が人口の7%を超え、いわゆる高齢化社会に突入したのは、1970年のこと、以来、その割合は上昇し続け、1994年に「高齢社会」へ、そして2007年には「超高齢社会」へと突入しました。

一方、超高齢社会を支える上で欠かせない介護事業においては、人手不足や低賃金の問題が深刻です。

国の政策への期待もさることながら、社会全体がアイディアを出し合い、新しい介護のかたちを見出すことは、日本が抱える喫緊の課題とも言えます。

では、不動産会社はこの問題においてどのような役割を果たせるのでしょう。

介護事業をメインに複合的な事業を展開し介護の新しい在り方を提案している「つばさグループ」代表の津金澤寛氏と、株式会社ワッフル代表取締役の和泉利明が、その可能性について語り合います。

株式会社オールプロジェクト 代表取締役 津金澤寛 ツガネザワ ヒロシ

津金澤 寛(つがねざわ ひろし)1971年 千葉県
社会福祉士・介護福祉士・精神保健福祉士・主任介護支援専門員。
株式会社オールプロジェクト:代表取締役、(福)志真会:理事長補佐、(福)弘成会:理事、千葉福祉経営協同組:理事、(一社)24時間在宅ケア研究会:理事、(一社)千葉県在宅サービス事業者協議会:副会長、(一社)ちば地域密着ケア協議会:理事、君津市介護支援専門員協議会:副会長。
厚労省老人保健健康増進等事業研究(三菱UFJリサーチ、三菱総研、24時間在宅ケア研究会、NTTデータ経営研究所)委員参加。
講演のテーマは「定期巡回随時対応型訪問介護・看護」「地域包括ケア」「介護保険法改正」「外国人技能実習生(介護)」「人口減少社会における介護事業」など幅広く、全国各地で年間約50本をこなしている。

 

目次

 

「つばさグループ」が展開する介護ビジネスとは

■千葉・君津に根差した総合介護グループ

 津金澤  つばさグループは、千葉県君津市で2000年にスタートした介護を中心とした企業グループです。

株式会社オールプロジェクト、社会福祉法人志真会、千葉福祉経営協同組合という3つの団体を中心に事業を展開をしております。また付帯事業としまして、飲食事業、教育事業、不動産事業も手掛けています。

 

■充実した介護を提供するための環境づくり

 津金澤  介護現場はやはり人材が不足しています。なんとかしていい人材を多く集めて、より質の高いサービスをお客様に提供しなくてはいけない。そこで当社では、外国人技能実習生の受け入れを積極的に考えています。

また、実習生として日本にいらしたからにはきちんとした教育を受けて現場に出ていただけるよう、教育にも力を入れており、ベトナムやインドネシアから来た方々に対して、入国後1日6時間 を7日間、合計42時間の研修を行っております。

 和泉  介護ってやはり「しんどい、きびしい」みたいなイメージがありますよね。

 津金澤  おっしゃる通りで、それが原因でなかなか人材が集まってこないのですが、業界の根本的な問題として一番心配なのは、介護施設は客単価も定員も決まっているため、売り上げがそこで終わってしまうということです。

これでは構造的に職員の昇給ができません。箱物であるデイサービスやグループホーム、老人ホームというものは当然必要なんですけれども、それだけに頼るのは経営として非常に危険なんです。

そこで我々が考えているのは、「訪問型介護」と言われる、定員に関係なくお客様のご自宅へ行ってサービスを提供する形態です。この訪問介護プラス箱物の両輪で事業を回していこうと考えています。

 和泉  介護も大事ですけれども、働いてくださるスタッフのみなさんの給与面も大事ですもんね。

 津金澤  そうですね。ですので、スタッフの福利厚生も兼ねて、保育園や学童保育園、飲食事業、整骨院、マッサージなどを手がけ、より安心して働いていただくための環境づくりに力を入れています。

 

 

介護を隔離しない街づくりのために

 

■入所型介護から在宅型介護へ

 津金澤  介護施設というのは一つ作るのにも非常にお金がかかりまして、東京都の場合だと1部屋あたりおよそ1,000万円のコストがかかります。100床の施設を作ろうとすると、10億から15億円の建設費がかかることになります。

また、特別養護老人ホームは転用して売るようなことができないので、建ててしまったらそこで資産価値がなくなってしまうんです。そうした潰しのきかない建物を建ててどうするんだ、という課題もあります。

一方、在宅型の問題点ですが、高齢者の方がたくさん集まる施設であればヘルパーも合理的に介護が提供できますけれども、お一人の高齢者の方に一人のヘルパーが対応するとなると、いいケアが提供される反面、それだけの人材がこれから潤沢に確保できるのか、またその人材を後押しするための財政支援がついてくるのかという点で、なかなか難しいところです。

このように、両方ともいい面もあり悪い面もあるのですが、我々としては、ご自身の生活をずっと作ってきたご自宅やその土地にはご友人や思い出も残っているわけですから、そういうところで最期を迎えていただくことが望ましいのではないかと思い、在宅型介護を広めていこうと思っています。

施設が悪いというわけではなく、施設で介護を受ける人、家での介護と施設での介護が半々の人、ずっと家で介護を受ける人、この3類型から選べるようにできればと考えており、その分類がようやく進みつつあります。

 

■AIやIoTの力で住宅を介護に最適化する

 和泉  不動産会社としては、ご自宅での介護においてできることを考えた時、まだまだ我々の力は弱いなと思っています。

 津金澤  介護保険では、例えば手すりを付ける場合、要介護1以上であれば介護保険料が支払われるような住宅改修の仕組みがあります。そういったものをどんどん不動産業界の方、建築業界の方に取り入れていただき、高齢者がより安全に暮らせる家を作っていただくことが、一つのヒントになると思いますね。

それと、バリアフリーやユニバーサルデザインの思想はすごくいいと思うんですけれども、目に見えないバリアもあると思うんです。例えば温度のバリア。おトイレに行くと当然ズボンを脱ぎますよね。またお風呂に行けば当然裸になります。そうすると、体感温度が変わって血圧の急上昇や急低下があり、特に寒い地方ですと亡くなる方が非常に多いわけです。

そこに住宅業界の方が力を入れてくださって、IoTやAIの力で「我々の供給する住宅はお風呂もおトイレもリビングも全部同じ温度にできるので安心して生活していただけますよ」というような取り組みをしていただけると、「在宅のほうが暮らしやすい」と思えるようになるのかなと思いますね。

 和泉  最近知ったのですが、AIとIoTがさらに進化した「アンビエント」というものがあるそうです。この行動をしたら次にはこんな行動が紐づくだろうということを毎日の生活の中でAIが察知して、行動をするか否かを人に質問し、イエスと答えればそれが行われると。そうすると、温度を保つということも自然にできるようになると思います。

 津金澤  それはすごくいいですね。施設であればヘルパーが気を遣って「そろそろお風呂の時間だからお風呂にお湯を張るついでに脱衣場をあっためておこう」「おトイレはいつ入るかわからないから常にあっためておこう」とやっていますが、ヘルパーの代わりに機械がいろいろと環境を設定してくれるというのは、すごくいいアイディアだと思います。

 

■「心のバリア」を下げるための取り組み

 和泉  でも、例えお金持ちで大きな家に住んでいたとしても、社会や地域との関わりがなければ、いくら在宅でも寂しいですよね。地域を巻き込んでやっていくために不動産として何かできることはないかなと、いつも思っているんですが…。

 津金澤  おっしゃる通りで、施設がいいのか在宅がいいのかというのは一元的な話ではないと思います。人間関係があってこそ、そこに暮らす人としての営みがあるので、人と地域をどう結んでいけるかが在宅生活のひとつのカギになると思います。

在宅には、少し面倒くさいところがあります。ごみ当番をしなければいけないとか、月に一回の一斉清掃があるとか。元気なうちは問題ないと思いますし、お子さんが小さければ家族で参加したりすることもあるでしょう。でも、お歳を召されて体にマヒが出て、奥さん、旦那さんが先に亡くなって一人になって、それでもごみ当番とか草取りとかドブ掃除をするというのは、しんどいですよね。

でも地域の人が、「そういう場合はごみ当番を免除しましょう」といったようなことを、一方的にではなく「我々はそう考えてるんですけど、いかがですか?」というコミュニケーションの中で決めていけば、お年寄りも「自分は地域に大事にされている」と思えるでしょうし、若い方も高齢者の方を認めて生きていける。これはむしろ当たり前のことだろうと思うんです。

人口が増えていく時代においては、高齢者、労働者、その前の段階の子供達と、世代ごとに細分化していけばよかったと思うんです。でも、人口が減っていく時代となった今は、分けるよりも一緒にするという施策のほうが大事かなと思います。

コミュニティに子供がいて、高齢者もいて、働き盛りもいて、障がいを持っている方もいて、最近では外国の方もいて。それが当たり前だとみんなが思えれば、心のバリアが一つ下がるのかなと思いますし、そういう地域を作っていくことはすごく意味があることだと思います。

 

■空き家や空き地を活かす手立てはないか

 和泉  不動産の相続にはかなり難しい問題があって、解決できないまま塩漬けになっている空き家や不動産が増えています。今、首都圏だけで3万8000戸の空き家があるそうです。

また、マンションに空き家があると、一戸あたりの修繕積立金や管理費の負担がどんどん増えていきます。支払いできればそれでもいいですけど、支払いできない人もいる。じゃあ誰が修繕をするんだということで、かなり深刻な問題として受け止められてます。

これらをどうしていくのかというのは不動産業界の中でも課題になっていますが、そうした空き地や空き家を活用して、例えば介護施設と住宅が一つになったような場所を作っていくようなことはできないかなと考えています。

 津金澤  3万8000戸もあるものを使わないのはもったいない話ですね。

例えば、一戸建ての家をある程度きれいにしてシェアハウス的に使うという発想もいいかなと思いますし、バブル期の物件で減価償却された優良物件のマンションも結構あると思うので、それを一部手直しすれば、高齢者が集まって住むための場所にもできるのかなと思います。

一方で、これはもうダメだという物件はちゃんと平らにして、安全を確保しなくてはいけません。その見極めは我々にはできないので、プロの目で「これは優良物件だからもったいないよ」と見極めて、我々のような介護事業者に何か使い道はないかと聞いていただければ、「こういう人たちがいて困っています」という提案ができると思います。

これからはぜひ、介護事業者と不動産事業者が手を組んで街を盛り立てていくようなことができればいいなと思います。

 

■CCRCは日本の介護に適応しうるのか

(※CCRCとは・・・高齢者の生活におけるアメリカ発のアイディア。高齢者が健康な状態で入居し継続的かつ終身で生活できるケア付きの生活共同体のこと)

 和泉  CCRCのような住宅の販売も日本で出始めているようですが、日本におけるCCRCの問題点について、何かお考えはございますでしょうか。

 津金澤  山を切り開いて平らにしてゼロから作っていくっていうところが、そもそもの日本のCCRCの間違いだと私は思っています。

必要なのはゼロから作ることではなく、今ある地域をCCRCにするためには何が足りないのかという発想だと思うんです。

不要なものを付け足していくことで、ハードの面に関しては何とか乗り越えていけるんじゃないかなと考えています。それはクリーニング屋さんかもしれない、クリニックかもしれない、町工場かもしれない。

足りないものを付け足していき、自分たちできるようなものを自分たちで作っていく、そして守っていく。これがすごく大事なことなんじゃないかなと思っています。

日本って、もともとそれをやってきたと思うんですよね。でも1970年代以降それをやらなくなったことで、日本の高齢者は家で死なずに病院で死ぬという流れに変わってきた。なので、もう一度考え方を戻していくことが必要だと思います。

 

 

介護と不動産が手を携えてお年寄りを守る社会へ

 

■介護に必要なのは「人間の心」

 津金澤  認知症の方が徘徊して、自分が今どこにいるのかわからなくなって、その結果不幸な事故に遭われることが時々ありますが、それは誰も声をかけないから起きるのであって、「あ、いつものおじいさん、それ以上行くと危ないですよ、こっちですよ」ってみんなで声をかければ、そのおじいさんの行動は徘徊ではなく散歩になるんですよね。それが地域の力だと思います。

 和泉  僕も同じ意見です。お年寄りはお年寄りと話すのではなくて子供と話したほうが長生きする秘訣になったり、精神的にもいいと思うんですね。

 津金澤  カメラも必要だしセンサーも必要だしGPSも必要だと思うんですけども、最後は人間の心です。私たちの街を私たちが作って行くことで、私が歳をとっても、私が障がいを負っても、私の子供も、私の孫も、ずーっと幸せにここで暮らしていける。これはお金に換えられない財産だと思います。

私の会社も、これからみなさんと一緒に暮らすために、ソフトの面できちんと研修、教育をして、地域にどんどん人材を送り出していきたいと思っていますし、不動産をやられる方、建築をやられる方に関しては、ハードの面でそうしたことを考えながら街を作っていただけると、すごくいい社会ができるのかなと思ってます。

 

■お年寄りを気にすることが普通になるといい

 和泉  介護する立場になった時に、施設に何回も足を運べるかって言ったら、なかなか難しいと思います。でも、住宅と施設が近くにあれば、10分で顔を出しに行けるとか、顔も出しやすくなる。一緒に生活していく街を作ることによって、また新しい文化が生まれてくれば、すごくいい未来図が描けるような感じがしますね。

 津金澤  私の会社は介護タクシーが20台ぐらい巡回しているんですけども、ただ走らせてるのではなくて、徘徊で行方不明の高齢者がいますという情報が入ったらみんなに一斉送信をして、運転しながら何となく気にするようにしています。

そういうことを、我々の会社だけではなく、例えば郵便局も巻き込んで、郵便配達のおじさんも一緒に見てくれるようになったらいい。わざわざ探しに行くのは大変です。お巡りさんも呼ばなきゃいけないし。

でも、街のみんながそういうふうに何かを考えてくれるようになれば。そんな社会創りを目指していきたいなと思っています。

 

 

 

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