編集部
データの蓄積がリノベーションを変えてゆく
不動産とITが関わり合う、その未来像について語る、ソフトバンク株式会社の小川昌宏さんと株式会社ワッフルの和泉社長。IT技術が進化を見せる一方、不動産業界におけるテクノロジー導入への取り組みは、まだまだこれからだと和泉社長は語ります。一方、小川さんは、ITの世界の最前線に身を置く立場から、テクノロジーが少しずつ、しかし確実に不動産の領域へ浸透しつつあることを実感しているようです。
では、そのスピードを加速し、本当に価値のある不動産とITとの関わり合いを生むためには、どんな取り組みが理想なのでしょうか。
■不動産におけるITのプラットフォームを狙う投資家が増えている

和泉 先日、知り合いの会社のIoTのショールームを体感してきたんですが、とても素晴らしいなと思いましたし、「こんなこともできるのか」という新しい発見もあったんですけど、正直、自分がそこに住むとなった時のイメージが湧かなかったんです。カーテンが自動で開くというけれど、別に自分で開ければいいしな、とか、そういうふうに考え始めたら、どうやって住宅の中にIoTが入っていくのがいいのか、頭にハテナマークがついてしまったんですね。
小川 実感値を伴って明らかに便利になる幅が、まだ小さいんだと思います。ただ、明らかに市場規模が大きくて、ITの活用度合いの高い領域であることは間違いない。だからこの不動産という市場にみんなが注目しているわけです。

和泉 どのへんで注目されているとお感じになられますか?
小川 不動産もしくは衣食住の住に関わるデータを押さえたものが勝ち、という思想で、プラットフォーマーになるために今から手をつけていこうという投資家が増えていると私は感じています。実現するのは10年先の話だと思うんですけど。
和泉 確かに最近は、ITの会社さんはもちろん、不動産でもITに特化している会社などは、プラットフォームを狙いに行っているというのがよくわかります。
小川 データを様々なビジネスに活用できるようになる流れでは、まずセンサーがあって、その次にネットワークがあって、さらにその次のデータを統合するプラットフォーマーが出てきます。センサーは日本が得意な分野でもありますし、だいたい完成に近づいているとも思いますけど、この2~3年から5年ぐらいのスパンぐらいで言いますと、ネットワークが5Gに強化されるので、よりIoTに向いてくる。そういった環境が整ってきた時に、今投資している人たちがどのようなプラットフォーマーになるかというところが見ものですね。
■データを提供することで賃料がゼロに!?
小川 ソフトバンクの出資先で「WeWork」というコワーキングプレイスを提供しているアメリカの事業体があるんですが、本国で今度、住まいの中のデータを取るために住まい自体を提供するというサービスを始めるそうです。
和泉 住まいを提供するというのは、例えば賃貸なら賃料がゼロになってしまうとか、そういうことですか?
小川 いや、賃料は取るんですけど、シェアハウス的な、食住一体のものを提供しようとしていると聞いています。結局それも、彼らは住のプラットフォーマーになろうとしているわけですね。Workのプラットフォームにはなりつつあるので、今度は住のプラットフォーマーのなろうとしている。
和泉 賃貸であれば、データを取るために賃料をなくして、その代わりに顧客がデータを提供するようなこともありうると感じているんですけど、それは物理的には難しいでしょうか。
小川 仕組み的には成立すると思います。ビジネスとして成立するかというところが、今後の注目じゃないですかね。
■家族の未来像までデータから読み解ける時代へ

和泉 売買だと権利関係の問題があるので難しいと個人的には思っているんですけど、当社がやっているリノベーションで言えば、例えばリノベーションをする代わりにデータをいただく、その代わりリノベーション費用はなくなる、ということはできるのかなと思っています。
小川 おもしろいですね。そうすればそうするほど御社にデータがたまっていきますから。
和泉 不動産業界って、今までデータを大事にしてこなかったと思うんです。でも、データによって顧客に提案する幅が広がったり、いろんなことに使えると思います。情報が入ればリノベーションの中味だって変えられると思いますし。ファミリー層に合わせて作るとか、単身者に合わせて作るということも、たぶんデータ見ながらできるようになりますよね。
小川 住まいにまつわるデータがいろいろわかってくると、そこにお住まいの家族の5年先、7年先、ああこの家族は今こういうステージにあって、どういうふうに歩んでいくんだろうなというのがデータである程度わかるようになります。そういう時代が、間もなく来るのかもしれないですね。